みなさん、こんにちは。

今回は、相続法改正についての最後のテーマとして、遺言執行者に関する改正を取り上げます。そもそもの話として、「いごんしっこうしゃ」という言葉自体、一般の方からすれば、日常会話に出てくることなど想定できない、全くなじみがない言葉ではないでしょうか。そこで、まずは「遺言執行者」とは、何者?ということからご説明し、主に総論的なところまで解説したいと思います。

・遺言執行者のお仕事

遺言執行者は、被相続人が亡くなった後で遺言の内容を実現するための職務を行う人のことをいいます。具体的には、遺産に含まれる不動産の登記は、遺言で「Aに相続させる」と書いただけでは移転せず、管轄の法務局で手続をしなければいけません。また、家財道具のような動産も、引き渡しという行為が必要です。このように、遺言のうち何らかの行為が必要なものを担う、というのが、遺言執行者のお仕事です。

・遺言執行者になる人、手続

「遺言執行者」といういかめしい言葉を見ると、何か特殊な資格のようにみえるかも知れません。しかしながら、全然そんなことはありません。子供たちの中で一番しっかり者に「後は頼む!」としてお願いするようなことも珍しくないのです。手続としては、遺言書で指定するか、又は遺言執行者がいなくて困るときに、相続人などの利害関係人からの請求で選任されるか、いずれかとなります。

・遺言執行者に関するこれまでの問題点

遺言執行者については、民法で「遺言執行者は、相続人の代理人とみなす。」と定められています。しかしながら、遺言執行者の職務は、相続人と利害が対立する場合が結構あります。わかりやすい例でいえば、相続人のAさんが分けてもらいたかった不動産について、被相続人が全くの第三者であるBさんに遺贈する、という遺言を書いていたような場合です。遺言執行者は、遺言を実現するためには、Bさんへの移転登記の手続をする、ということになりますが、Aさんは「それはやめてくれ!」という立場です。こういう場合にも、遺言執行者がAさんの代理人、というのは無理があります。実際に、同様の事案で、相続人が遺言執行者を訴えたという事件もありました。

・改正法で、遺言執行者の立場が明確に!

以上のような問題点を解消するため、相続法の改正では、「遺言執行者は、相続人の代理人とみなす。」という表現を改め、以下のような文言としました。

「遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生ずる。」

これに加えて、遺言執行者が遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有するのは、

「遺言の内容を実現するため」

である、とはっきり民法に書き込まれたのです。

大きな視点でみれば、遺言執行者の実態は、亡くなった方の代理人です。ですから、故人の意思と相続人が利害対立する場合には、故人の意思を優先させて遺言を実現するべき立場にあります。そして、遺言執行者が行ったことの法律効果は、相続人に有利なものは勿論不利であっても相続人に帰属すべきです。

民法は死者の代理を認めていませんからそうは書かれないわけですが、以上のような改正法の表現は、遺言執行者の実際の職務を反映した妥当なものということができます。

・遺言執行者に就任したことについての通知義務も新設!

また、現行民法では、遺言執行者に就任したこと自体を相続人に通知すべき、という条文はありません。ただ、遺言執行者が就任すると、遺言執行者に遺産の管理処分権が発生し、相続人は遺言執行を妨害する行為ができなくなります。ゆえに、相続人にとっては、遺言執行者の有無は重大な関心事です。そこで、相続法改正においては、

遺言執行者が任務を開始したときは、遅滞なく遺言の内容を相続人に対し通知すべきこと

を義務として定めました。遺言執行者が就任したことは直接的には通知義務の内容に入っていませんが、そもそも遺言執行者が就任を承諾した場合にはただちに任務を行うべきことが民法で定められています。その任務の一環として、遺言執行者に就任したことの通知も入ると一般的に解されています。

ただ、実際の相続の現場を想定した場合、少なくとも我々弁護士が遺言執行者に就任する場合で、相続人にその旨や遺言の内容を通知しない、ということはほぼ考えられません。

次回も、遺言執行者に関する改正について、引き続き解説していきます。今回は、総論的な内容を中心にみてきましたが、次回は、遺言執行者が、例えば不動産の相続や預貯金の相続でどういう職務をするのか、訴訟になった場合に当事者になれるのか、などの各論について、ご説明していきます。

それでは、又来週。