遺産相続トラブルとは?
「遺産相続トラブル」と聞くとどんなイメージでしょうか。「まだまだ先のこと」、「うちはもめないから大丈夫」、「いざ相続となるともめそうな気がする」、「気になってはいるけどなかなか言い出しづらい」など、色々なイメージをお持ちかもしれません。
特に、「なんとなく気になってはいるけれども話し合いや相談ができていない」といった方は非常に多いと思われます。
結論から申し上げると、遺産相続トラブルは誰にでも起こることであり、絶対にもめないと思っている親族の間でも泥沼の争いになる可能性が高いことを知っておいていただきたいと思います。むしろ仲が良かった親族ほど、争いになると「骨肉の争い」に発展してしまいがちです。というのは、恥ずかしながら筆者の親族でも、そのような争いになったことで実感したことです。
トラブルになってからでは手遅れということも少なくありませんので、話しにくいテーマであっても、事前にしっかり話し合いや相談をし、準備をしておくことが重要です。
遺産相続ではどんなトラブルが起きる?
遺産相続のトラブルで、多く起こりがちなものは、「相続の際に故人の遺産の内容がわからない」というものです。
例えば、
- 遺産目録を作成しようとしたが、故人の遺産がどこにどれだけあるか全くわからない
- 故人の遺産として、預貯金がもっとたくさんあったはずなのになぜかない
- 故人が生前に持っていた有価証券や預金口座などがどこにあるのかわからない
- もしかしたら借金をしていたかもしれないがどこから借りていたかわからない
- 知人にお金を隠していた話を聞いていたが、誰に貸したのかわからない
など、故人が逝去した後は、故人から話を聞かない限りわからないことも多いものです。
「もっと早く遺産の話をしておけばよかった」
「故人に財産目録のメモを作ってもらっておけばよかった」
という後悔の言葉を聞くことも多いです。
遺産を残す側からしても、残された遺族に対して、遺産がどこにどれだけあるかを必死に探させるのは本望ではないはずです。遺産を残す側にとっても、残される側にとっても、「遺産がどこにどれだけあるかの目録」を、事前に作成しておくことは必須と言っても過言ではありません。
相続トラブルで泥沼の争いになるケースは?(PART1)
相続トラブルで泥沼の争いになるケースの一つとして、「相続人のうちの一人が、生前に故人のお金を着服していそう」と疑われるケースが挙げられます。
特に、兄弟が複数いる場合のそのうちの一人が、故人の身の回りの世話などをしていたケースですと、事実上預金口座の管理を、故人に頼まれているケースが少なくありません。日常的に、故人の口座からのお金の引き出しなどを行なっているため、故人のお金を勝手に使ったり、自分の口座に移し替えたりすることも容易といえば容易なわけです。こういった事情から、特に、「もっと預金がたくさんあったはずなのになぜか見当たらない」と相続人のうちの一人が言い出すと、当然、近くにいた相続人のうち一人が怪しいと疑われることが多いのです。
もちろん、身の回りの世話をしている以上、生活費や日用品の購入、光熱費の支払いなど、想像以上に支出を要する場合も少なくなく、他の相続人の思い過ごしである場合もあるとはいえます。一方で、あまりにも高額な金額がどこにいったかわからないとなると、それはやはり、故人の側近にいた人間が着服していることが疑われるわけです。
このような争いになった場合、当然着服を疑われた側は「全部私に任せておいてひどいこと言うな!」と憤慨し、故人の生活費のために使ったのだと主張します。一方で、着服を疑っている側は、「故人の介護に名を借りて、お金を大量に自らの懐に入れるなんて許せない」というように徹底的に追及しようとします。このような経緯をたどって、遺産の着服が疑われるケースは、相当な泥沼の争いになります。このようなトラブルを防ぐために、預金の管理について相続人全員が、生前からしっかり把握しておくなど、事前の準備は非常に重要です。
仮に争いになった場合であっても、取り返しがつかないくらい泥沼になる前に、資料等を精査して、冷静にお話し合いを進めるよう努めることが重要です。預金の動きや故人の支出の内訳などをしっかり精査し、客観的にお金の動きを把握することで、話し合いを可能な限り円滑に進めることが可能となってきます。弁護士が各預金口座の過去の取引履歴を調べて精査することも少なくありません。この段階で、仮に説明のつかないお金の動きがあるということであれば、これは着服したと思われる相続人の一人に対し、そのお金を返してくださいと請求していくことになります。
相続トラブルで泥沼の争いになるケースは?(PART2)
相続トラブルで、泥沼の争いになるケースとして、「相続人のうちひとりだけ故人と生前にお金のやり取りがあったケース」や、「故人の介護が大変だったのに兄弟のうち一人だけ負担していたケース」が挙げられます。
前者の具体例としては、兄弟間で、
「お兄ちゃんはマイホームを購入する時にお父さんから300万円もらっていたよね」
「私は公立の高校と大学だったのにお姉ちゃんは私立の高校と大学だよね」
「お前は、借金で困ったときに200万年親父から融通してもらったよな」
「兄弟のうちお前だけが父親から土地を譲ってもらった」
といった主張がされるケースです。
もちろん相続人のうち一人が故人から特別な利益を得ていた場合には、特別受益といって、相続の際にこれを考慮して遺産を分ける運用がなされるのですが、どこまでが特別受益になるかについて争いになるケースも少なくなく、この辺りは感情論にもなりがちなので注意が必要です。
後者の具体例としては、兄弟間で、
「お兄ちゃんお姉ちゃんは、早々に家を出てしまって、父親をほったらかしだった」
「母の介護は病院への通院などもとても大変で、私は会社を辞めざるを得なかった」
「父親の自営業を引き継いで一人でやりくりするのがとても大変だった」
といった主張がなされるケースです。
もちろん相続人のうち一人が故人の資産形成に貢献していたということであれば、これは「寄与分(きよぶん)」として相続の際に考慮される可能性もあります。この意味では、故人の会社経営などを引き継いだ、助けたという事情は、寄与分として考慮されやすいといえます。一方で、介護を頑張ったという事情は、あくまで親族として助けているという評価にしかならず、資産形成に貢献したという評価になることがなかなか難しいといった現状があります。
こうなると相続の際に、「介護を一人で頑張った私と、全く介護をしていない他の兄弟が、同じ遺産の取り分なんておかしい」ということで争いになるケースは少なくありません。
このような場合に、重要だと考えられのが、故人が生前に、「介護を頑張ってくれた兄弟のうち一人に、遺産を多く分配しよう」といった内容で、遺言を書いておくことです。
こういった遺言があれば、故人の意思にもかない、かつ、実質的に平等な相続が実現される可能性が高くなると言えるでしょう。
遺言書ってどうやって作るの?
遺言と聞くと、どんなイメージをお持ちでしょうか。皆様にお話を聞くと、「手書きで遺言を書いて、封筒にしまって、封をして保管してあるやつ」といった回答が返ってくることが少なくありません。このように、ご自身で手書きで書き、署名押印をして残しておく遺言を、自筆証書遺言といいます。
自筆証書遺言のメリットとしては、
- 手軽に作れてお金がかからない
- 何度でも気が変わった時に書き直しが容易である
といったメリットがあげられます。
一方で、デメリットとして、
- 形式に不備があると遺言が無効となってしまう
- 遺言の内容が偽造されやすい
- どこにしまってあるかわからず発見されないリスクがある
といったデメリットが挙げられます。
内容の正確性や、偽造等のリスクを軽減するために、通常私たち弁護士は、次にいう公正証書遺言をお勧めしています。
公正証書遺言とは、公証役場で、証人立会いのもと、公証人によって遺言書を作成し、これを遺言者が手元に控えておくとともに、公証役場にも保管してもらう方法の遺言です。相続人のうち一人に、「~~の公証役場に遺言書を預けてあるから」と伝えておけば、遺産相続の際に、その公証役場から遺言書をもらうことができるわけです。
公正証書遺言のメリットとしては、
- 公証役場という公の機関で作成するので内容の正確性が担保される
- 遺言の内容に不備や漏れが生じにくい
- 故人が亡くなった際に遺言を確実に把握しやすい
といったメリットが挙げられます。
一方でデメリットとしては、
- 作成に費用がかかる
- 公証役場に赴いて証人をたてるなど若干手続きが煩雑である
- いざ書き直したい場合に容易に書き直しができない
といったデメリットがあります。
弁護士が遺言のご依頼を受ける場合、公正証書遺言の内容も基本的には弁護士が作成し、公証役場とのやり取りや証人としての役割も通常は弁護士が担当するので、予想されるほどの大きな負担は生じません。遺言書をめぐるトラブルとしては、「お父さんがこんな内容の遺言書を作成するはずがない」といったトラブルが非常に多くなっています。公正証書遺言であれば、公証役場でしっかりと故人の意思を確認したということになり、基本的にはこういったトラブルも防げます。
遺言は作成すべき?
遺言は作成すべきでしょうか?遺言を作成するのはどのタイミングがいい?などと質問を受けることがよくあります。結論としては、「今すぐにでも遺言を作成すべき」というのが筆者の見解です。
最近では、20代30代の方でも遺言書を作成する方が増えてきているイメージがあります。もちろん、そんなことないに越したことはないですが、病気や事故などで急に命を落とすということも可能性としてはあるわけです。いつ相続の問題が生じるか分からない以上、ご自身のもとに少しでも財産があるのであれば、遺言を作成しておくことをお勧めします。仮に将来、遺言の内容を書きかえたいという場合は、いつでも変更は可能ですので、気になったらまずは遺言を作成してみるというのが良いでしょう。
遺言を作成する大きな意義としては、三つ挙げられると思います。
一つは、「遺産目録がはっきりすることにより相続人に迷惑がかからない」という点です。やはり相続の際に遺族が困るのは、遺産の内容を把握しきれないというところです。この意味では、遺族を翻弄させないために遺言を残してあげるという大きな意義があるといえます。
もう一つは、「自分の希望通りに遺産を遺族に分配できる」という点です。仮に遺言を作成しておかないと、遺産はすべて残された相続人の間で、法定相続分に従って分配されることになります。例えば、妻と子供二人が相続人となる場合、妻の相続分は1/2、子供達の相続分はそれぞれ1/4となります。
預金や現金であれば分割も簡単ですが、土地建物といった不動産がある場合は、そのままにしておくと妻1/2、子供達1/4の割合の共有状態となってしまいます。遺言で、「土地建物は妻に相続させる。そのかわり、預金現金については子供達で半分ずつ分ける。」といった内容を残しておけば、不動産が共有となってしまうなどの煩雑さを防げます。また子供のうちの一人が一生懸命介護をしてくれたことを理由に、遺産の1/2をその子供に相続させるといった遺言を残すことも可能です。このように、自分の希望を遺言に反映することが円滑な相続手続きのために有用であるといえます。
3つめは、これが何よりも大切と考えますが、「遺族が相続でもめないために」という点です。逆の言い方をすれば、「遺族が相続でもめないように配慮した遺言を残すことにより、円滑な相続を実現させる」ことを狙うわけです。
やはり相続のお話の際には、誰が得している、誰が損をしている、といった話が必ずと言っていいほど出てきて、法定相続分通りに相続をするのでは納得のいかない人間が出てくることがほとんどです。このような事情を踏まえて、法定相続分通りではなく、生前の色々な事情を踏まえて、実質的に公平になるように遺産を相続させる遺言を作成するわけです。
この遺言には、相続の方法だけではなく、
- どういった理由でこういった分配にするのか
- 残された遺族に対する気持ちや伝えたいこと
などを書き記すこともできますので、遺族としてはその遺言を見て、「そういう理由であればこの相続にも納得がいく」と気持ちを落ち着かせることも期待できるわけです。
また、遺言はせっかく作ったのですから、後々覆されないような内容にしておくことが重要です。これは難しいお話ですが、「遺留分」といって、「遺言にもかかわらず最低限、相続人が相続するべき相続分」というものが、法律では定められています。例えばさっきのケースで行くと、妻の遺留分は1/4、子供達の遺留分は1/8とされています。なので、子供のうちの一人が、遺産の1/8さえ受け取れないような遺言の内容になっていると、後々、遺留分減殺請求といった手続きにより、遺言の内容が覆されてしまいます。結局、せっかくもめないために遺言を残したのに、遺言の内容を争って遺族がもめなければならないということになります。
このように、適切な内容で遺言を作成しておくことは、遺産を残す側にとっても、遺産を受け取る側にとっても、「あるべき姿の相続」を、円滑に進めるために非常に有用であるといえます。
遺産相続でもめた場合は?
遺言が作成されていない、遺言はあるけど内容に納得いかない、遺産がどこかに隠されていそうだ、といった色々な理由で、相続人同士でもめてしまった場合はどうしたらよいでしょうか。結論としては、なるべく早くに弁護士にご相談いただくことをお勧めします。
やはり相続トラブルで実感するのは、これまで血の繋がった親族として関係を持ってきたからこその、感情のぶつかり合いが大きく、泥沼になると収束がつかなくなってしまうということです。元々は仲の良かった兄弟や親族の関係が、いざ相続となった途端、なじり合い・けなし合いの大喧嘩になることも少なくありません。
相続で長期間揉めてしまったご親族は、相続問題が解決した後も、一生縁を切ってしまうことが少なくありません。取り返しのつかない溝ができてしまう前に、第三者である弁護士が間に入り、お互いの誤解を解いたり、故人の意思を客観的立場から判断したりすることにより、関係を修復していくことが重要です。話し合いを進めていく中で、相続の内容について皆様の納得を得られれば、遺産分割協議書を作成するとともに、相続登記など、相続のための諸手続きまで行うことが可能です。
遺言の内容について争いが生じた場合も、そもそも本当に故人の意思に基づいて作成されたのか、有効な遺言なのか、法的な判断が必要になることもあります。その際も、裁判例に基づくとどのような結論になるのか、などにつき、弁護士がアドバイスさせていただきます。
相続問題は、感情のぶつかり合いになると、5年も10年もと長引いてしまうケースが少なくありませんので、なるべく早くに解決の途が見えるよう調整していくことが重要です。こういった親族間の争いからは、なるべく早く気持ち的にも解放されるのが望ましいでしょう。
最後に
遺産相続においては、故人の意思と相続人全員の気持ちが一致したかたちで、相続できることが最善の方法と考えています。そうなって初めて、相続人全員が気持ちよく、「ありがとう」の気持ちを故人に伝えることができるのだと思います。
そのためには、遺産を残す側も事前の準備が必要ですし、遺言などについてもその内容を適確なものにしておくことが重要です。遺産を残される側においても、なかなか話しづらいことではありますが、遺産目録を作っておいてもらう、預金などの管理について定期的に確認し合う、遺産に関するお話し合いを生前にしておく、遺言の保管場所やその内容についても可能な限り共有しておく、といった努力はしておいた方が良いといえます。
とはいえ、どのような内容の遺言を作成しておくべきか、相続に先立ってどのような準備をしておくべきか、相続が起きた際どのようなことに注意すべきかについては、故人の遺産の内容や相続人の方々の関係によっても様々ではあり、難しい問題もはらみます。ちょっとでも不安に思った場合はなるべく早くに弁護士に相談するようにしてください。