前回は,事例に沿って,交通事故の責任は重いというお話をさせていただきましたが,
改めて,交通事故の加害者の法的責任についてもお話していきたいと思います。

交通事故を起こした場合,怪我をさせた治療費や,慰謝料など,民事上の損害賠償責任を負うことは皆様ご存知だと思います。仮に,交通事故で死亡させてしまった場合には,数千万円~億単位の賠償責任が発生することもあり得ます。
ただ,通常は,自動車の自賠責保険と任意保険により,補填されることになるので,ご自身が一生かけて支払うということは少ないと言えます。ここでは,交通事故を起こした場合の刑事責任について見ていきましょう。

●交通事故を起こした場合の刑事罰は?

交通事故の加害者となった場合,それはもちろん犯罪です。過去の判例では,

酒に酔って危険な運転をし,これにより人を死傷させたとして(H27.7.9札幌地裁判決)
危険運転致死傷罪で懲役22年を言い渡した事例

があります。
悪質なケースでない場合,執行猶予がついたり,罰金刑で終わることも少なくないですが,
執行猶予がついたようなケースでも,同じような事故をもう一度起こせば,二回目は実刑となる可能性が高いと言えるでしょう。

そうなると,執行猶予中は怖くて車の運転は事実上できなくなることも多いと言えます。

● 免許や職を失う可能性は?

重大事故や死亡事故の場合は,

免許取り消しの可能性も高い

といえます。もちろん,タクシーや運送業の方は,車を使うお仕事ですから,免許がなければ即時仕事を失うことになります。
また,行政手続き上は,免許が取り消されなくとも,運転を業とするお仕事の方は,たとえ軽微な事故であっても人に怪我をさせてしまうと,会社から「業務停止」となったり仕事を辞めざるを得ないことがほとんどでしょう。
この意味で,交通事故は,交通手段はもちろん,仕事にも大きな影響を与えることが少なくありません。

● 死亡事故の場合の社会的責任

これは,法的責任ということではないですが,仮に交通事故で人を死亡させてしまったとなると,
当然,これは,

重大犯罪であることはもちろん,
周囲からの社会的非難も免れないことが多い

と言えるでしょう。
場合によっては,付近の住人の目や,お子様の学校での立場を気にして,やむなく引越しをせざるを得ないケースもあると言えるでしょう。

● 死亡事故は殺人よりも遺族はつらい

遺族の方の立場からすると,実は,交通事故による死亡事故というのは,「喧嘩や因縁・金銭トラブル等で殺害される」よりも気持ちの納得の上では,むしろ辛いということが少なくありません。

何も理由なく命を奪われる,ということがどうしても
「理不尽である」という思いが強く,到底納得することができない

からです。
この意味で,自らの不注意な運転により大事な人を奪ってしまった,その責任は,遺族に大きな悲しみを与えたという意味では,殺人よりも道義的責任が重いとも言えるでしょう。

●交通事故に関する厳罰化(危険運転等)

昨今は,交通事故は「重大犯罪」という認識となってきており,法的にも規制が強化されてきています。
人を死傷させる人身事故は,被害者が傷害を負った場合から被害者が亡くなられた場合まで様々です。傷害でも軽微な傷害もあれば,寝たきりになってしまうような重度の障害もあります。

後遺障害としてむち打ち症の痛みやしびれが残るというだけでも,
その人の人生をガラッと変えてしまう

ことになります。いずれにしても,人の生命や身体という最も尊重されるべきものを侵害しているのですから,その被害は小さくありません。そのため,重大犯罪として重い刑事責任が科されることになります。
特に,自動車事故に関しては,厳罰化の傾向があります。そのため,平成26年5月20日から,新たに「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(自動車運転処罰法)」が施行されています。

●過失運転致死傷罪(自動車運転処罰法5条)
自動車事故で人を負傷させたり死亡させた場合,かつては刑法上の業務上過失致死傷が適用されていましたが,最近は,悪質な自動車事故に対しては,これだけでは刑罰が軽すぎるということで,平成19年に自動車運転過失致死傷罪が刑法において新設され,重罰を科せられるようになりました。この流れで,刑法の特別法として自動車運転処罰法が新設され,過失運転致死傷罪が設けられました。
過失運転致死傷罪の場合,7年以下の懲役もしくは禁錮か,または100万円以下の罰金が科されます。

●危険運転致死傷罪(自動車運転処罰法2条以下)
通常の運転ミスではなく,危険運転により事故を起こした場合(正常な運転が困難なほどの飲酒運転,薬物使用運転,高速運転,技能不足状態での運転,信号無視などの場合),危険運転致死傷罪として,より重い刑罰が科せられることとになります。危険運転傷害罪の場合,1月以上15年以下の懲役が科され,危険運転致死罪の場合,1年以上20年以下の懲役が科されます。

●飲酒運転致死傷罪
酩酊の程度が正常な運転が困難な程度ではない場合でも,飲酒をして人を負傷させた場合には1月以上12年以下の懲役に,人を死亡させた場合は1月以上15年以下の懲役に処せられます。飲酒していたことを隠そうとした場合には,これとは別に,1月以上12年以下の懲役に処せられることがあります。

●その他の刑罰
事故後に救護義務に違反した場合,飲酒運転の場合などには,道路交通法違反によって刑罰をさらに加重されます。~~3月にはさらに道路交通法の改正法が施行されました。この動きはどんどん進んでいくと思われます。

「交通事故は他人ごと」のように思っている方も少なくありませんが,事故はいつ自分が加害者になるか分からない,そして,事故を起こせば重大犯罪を犯した犯罪者になってしまうのだということを今一度,噛みしめて実感していただき,日頃の安全運転に努めていただければと切に願います。