みなさん、こんにちは。
前回まで、配偶者居住権のお話をしてきました。今回は、配偶者短期居住権のお話です。
・配偶者居住権だけだと、困るケース
ここでおさらいですが、配偶者居住権は、存続期間が原則として「終身」、つまり死ぬまで続くとされていました。
ただその一方で、配偶者居住権は、①遺産分割協議や、②残された配偶者への遺贈を経ないと発生しないこととされています。
そして、相続の法律相談を受けていると、遺言がない、遺産分割協議もうまくいかない、といった事例はたくさんあります。
まさにそういう「うまくいかない」ときにこそ、残された高齢の配偶者が住むところを奪われては、大変困ることになります。
配偶者短期居住権は、そのように遺言はなく、遺産分割協議もうまくいかない、といった場合や、配偶者以外の人が家を取得した場合でも、「差し当たって」配偶者の方の居住権を認めてあげましょう、という趣旨で創設された権利です。
それでは次に、配偶者短期居住権の内容を具体的に見ていきましょう。
・配偶者短期居住権を認める前提
配偶者短期居住権は、生存配偶者が、被相続人の財産に属した建物を、相続開始時に無償で使用していた場合に発生します。典型的には、以下のような、とてもよくあるケースを想定してみてください。
① 実家で、老夫婦が暮らしていた。
② その実家の土地と建物は、旦那さんのもの。
③ この状態で、旦那さんが逝去された。
こういうケースであれば、基本的に、配偶者短期居住権は発生します。
次に、配偶者短期居住権の存続期間を見ていきましょう。
・配偶者短期居住権の存続期間
配偶者短期居住権がどの程度の期間認められるかについては、以下のとおりとなっています。
① 居住建物について、配偶者を含む共同相続人間で遺産分割をする場合、遺産の分割により居住建物の帰属が確定した日、又は相続開始の時から6か月を経過した日のいずれか遅い日まで
② ①以外の場合、居住建物取得者は、いつでも配偶者短期居住権の消滅の申入れをすることができるが、この申入れの日から6か月を経過する日まで
実務的によくありそうな①について、先ほどのケースにあてはめて少し具体的に考えてみましょう。
旦那さんが亡くなり、旦那さんは遺言を残していなかったとします。
そうなると、残された奥さんと一人息子は、遺産分割協議をするわけですが、奥さんと一人息子は仲が悪かったこともあり、なかなか話し合いが進みません。
そういった場合、遺産分割が終わらないうちは、残された奥さんは、実家に無償で住み続ける権利が発生していますから、安心して住んでいて大丈夫なのです。
ただ、遺産分割が予想外に早く、例えば2か月や3か月で終わるような場合もあるでしょう。
そのような場合であっても、旦那さんが亡くなって6か月を経過する日までは、残された奥さんは、配偶者短期居住権に基づいて、実家に住み続けることができる、ということです。
最終的に、遺産分割協議が成立して、一人息子との間で、残された奥さんが配偶者居住権(「短期」が入らない、原則終身の方です!)を取得するという内容になった場合には、配偶者「短期」居住権は、その配偶者居住権に含まれるため、消滅するということになります。
このように、旦那さんが遺言を残していなかった場合でも、残された奥さんとしては、
(1)まずは配偶者短期居住権を使って実家に住み続け、
(2)じっくり遺産分割協議をし、
(3)最終的には配偶者居住権を得て終身実家に住む、
というのが、新法で創設された新しいスタイル、ということになります。
今日まで、配偶者の保護のうち、住居の保護に関する新しい制度の基本を説明してきました。次回は、配偶者の保護のうち、お金に関する保護の話をしていきます。