みなさん、こんにちは。
今回は、大切な人が亡くなられた直後の時期の、亡くなられた方の預貯金の取り崩しに関するお話をします。

今回も、旦那さん、奥さん、子1人という家族で、旦那さんが亡くなられた、という事例で考えてみましょう。

・「夫が亡くなると、口座が凍結される!」は本当か?

相続の法律相談を受けていると、よく聞かれるのが、

「亡くなった人の銀行の口座はしばらく使えなくなるというのは本当ですか?」

という質問です。

確かに、死亡した方の預貯金について、複数の相続人のうち一人がお金を下ろしに行っても、銀行は基本的に応じてくれません。預貯金は、遺産分割の対象となる、つまり、遺産分割協議を経て誰に幾ら帰属するかを決めないと「取り分」は当然には決まらない、というのが現在(平成30年9月時点)での実務です。そういう意味で、亡くなった人の口座が「凍結」される、ということが起こるのです。

・口座が凍結されると、困ること

相続発生直後は、葬儀代や相続税などで何かとまとまったお金がかかります。しかしながら、相続人の方誰もがお金を潤沢に持っているとは限りません。できれば、相続した財産から葬儀代などを出したい、というニーズがあることが多いです。

それにもかかわらず、亡くなった方の預貯金に全く手が付けられない、ということになると、お金が足りない!としてお困りになる方も多いのが実情です。

・これまでの解決手段は?

このように、遺産分割協議がまとまらない場合、家事事件手続法に基づいて、遺産に属する預貯金債権について仮差押え、仮処分その他必要な保全処分をするという方法がありました。ただ、この方法を採るためには遺産の分割の審判又は調停の申立てが前提となっていました。それに加えて「事件の関係人の急迫な危険を防止するため必要があるとき」という、極めて厳しい要件があったため、なかなか活用が難しいのが実情でした。

・改正ポイント① 緩やかな仮分割の導入

そこで、今回の相続法改正では、2つの方法が新たに導入されました。

上記のとおりご紹介した家事事件手続法のケースに加えて、より緩やかな要件によって仮に分割する方法を新たに認めました。具体的には、遺産分割の審判又は調停の申立てが必要ではあるのですが、

「相続財産に属する債務の弁済、相続人の生活費の支弁その他の事情により遺産に属する預貯金債権を当該申立てをした者又は相手方が行使する必要があると認めるとき」

には、申立てにより、遺産に属する特定の預貯金債権の全部又は一部をその者に仮に取得させることができる、とされたのです。

・改正ポイント② 遺産分割前の預貯金債権の行使

以上に加えて、遺産分割の審判や調停の申立てをしなくても、預貯金の払戻しを認める規定が民法に加えられました。その規定によれば、単独で払戻しが認められる金額は、

遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の3分の1に、当該共同相続人の法定相続分を乗じた額

とされました。ただし、標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする、という縛りも設けられています。

この「法務省令で定める額」が幾らか、というのは、気になるところですね。この点は、民法第九百九条の二に規定する法務省令で定める額を定める省令(法務省令第二十九号)において、150万円と定められました。

<具体的には?>

遺産に属する預貯金が3000万円、夫が亡くなり妻と子1人が残された、というケースでは、

・3000万円を3分の1にして1000万円

・これを妻と子で2分の1ずつにして500万円ずつ

・ただし、いずれも150万円を超えているので、結論として、妻も子も150万円ずつ

ということになります。つまり、妻も子も、150万円であれば、遺産分割協議中であっても預貯金を「とりあえず」おろすことができる、ということになるのです。これは非常に画期的で、現場のニーズに一定程度応える法改正だと思います。

今日は、相続直後の預貯金の払戻しについてのお話でした。次回は、従来から直接的に正面から定めた条文はないものの、比較的実務で行われてきた「一部分割」が明文化された、というお話をします。基本的なところから解説していきます。