みなさん、こんにちは。
今回は、遺産の一部分割に関するルールが新しくなります、という話をします。
・一部分割とは?
みなさんは、遺産の一部分割というと、どういう事例を思い浮かべるでしょうか。私が過去に受けた法律相談から、具体例をご紹介します。
地方都市(仮に「甲市」としましょう。)出身で、今は東京に在住し、定年を迎える間際の男性の方からのご相談です。甲市には、弟さんが住んでおり、相続人は弟さんと相談者の2人だけです。母親が3年ほど前に亡くなった際に、相続税の申告はとりあえず済ませたものの、母親名義の不動産をどう分けるか、ということで話し合いがついていない、というご相談がありました。
母親名義の土地としては、甲市に複数と、今相談者の方が住んでおられる東京の土地もあり、東京の土地については、弟さんとの間で、相談者の方が単独名義にすることで争いがない、ということでした。そこで、相談者の方としては、
「今自分が住んでいるこの土地についてだけでも、とりあえず母親から自分の名義にしたいんだけど、どうかな?全部話し合うには時間がかかりそうだし。」
という質問を投げかけてきたのです。一部分割、ということでピンとこない、という方は、以上のような事例をひとつイメージしてみてください。
・従来の実務運用は?
従来は、民法で、一部分割のことを正面から定めた規定はありませんでした。ただ、実務上一部分割は行われていました。そして、遺産分割審判で一部分割を行う場合には、
① 遺産の一部を他の部分と分離して分割する合理的な理由があること(必要性の要件)
② 一部分割をすることによって、全体としての適正な分割を行うために支障が生じないこと(許容性の要件)
の2要件を満たす必要があるとされてきました。例えば、①としては、全相続人に合意があること、②としては、例えば預貯金だけ先に分割してしまってもその後土地を分けるに際して土地を多く取得することとなる相続人に十分な代償金の用意があること、などが挙げられます。
ただ、従前の実務では、やはり1回で遺産全体を分けるのが原則で、一部分割についてはあくまで例外、という発想が根本的な考え方でありました。
・相続法改正でどう変わる?
しかしながら、改正される相続法では、この原則と例外の発想を逆転させました。つまり、新法の907条1項では、
「共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。」
2項では、
「遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときには、各共同相続人は、その全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができる。ただし、遺産の一部を分割することにより他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合におけるその分割については、この限りではない。」
と定め、一部分割を明文化しました。
以上のとおりですから、従前の実務の要件である必要性の要件は不要となりました。ただ、許容性の要件は残っており、ここが家庭裁判所における請求が認められるかどうか、にかかってきます。以下、具体例で考えてみましょう。
・一部分割について、シンプルな事例で考えてみましょう!
母親が、預貯金1000万円を残して亡くなり、相続人は長男と次男の2名、というシンプルな状況で考えます。長男と次男は、残念ながら大変仲が悪い状態です。そして、遺産分割協議において、長男は、
「次男名義での500万円の定期預金は、名義は次男だが、実は母親の預貯金だ」
と主張しました。
現在の実務では、預貯金も遺産分割協議の対象となりますから、このままでは長男次男のどちらも、前回コラムで説明した方法を除いて、当面預貯金をおろすことができなそうです。
ただ、上記の長男の主張がかりに全く認められなかったとしても、長男は、1000万円の預貯金のうち半分の500万円分については法定相続分があります。次男との争いでどんな大負けをしても、争点が上記の1点のみならば、得られる預貯金の相続分が500万円を下回ることはないだろうと見込まれます。
ですから、争っている部分はさておき、長男が500万円を一部分割として取得することについては、その他に論点がないようであれば、許容性の要件が満たされる可能性が高いといえます。
以上のとおり、一部分割に関する改正で、従来よりも容易に一部分割が認められる方向性となりました。こういったニーズは少なくないと思われ、活用が期待されるところです。
次回は、相続をした場合の対抗要件に関するルールが変わりました、という話をします。主に、不動産と債権がテーマとなります。それではまた来週!