みなさん、こんにちは。
今回は、相続をした場合の対抗要件のルールが変わります、という話をします。この内容は、少し専門的な内容にも立ち入りますが、なるべく簡単な説明を心掛けようと思います。
・「対抗要件」って何?・・・権利移転の基本ルール
そもそも、「対抗要件」という言葉の意味がわからないという方もおられると思います。この点、ざっとおさらいします。
不動産の所有権や、貸金の貸主としての地位などは、目に見えないものです。ですから、不動産の所有権や貸金の貸主としての地位を譲り受けただけでは、その権利の移動は誰にもわかりません。そこで、民法では、「自分が不動産の所有者になりましたよ」「自分が貸主になりましたよ」といった権利の移転が発生したことなどを第三者に主張するには、単に譲り受けただけではなく、外部的に認識できるプラスアルファの行為を要求しています。それが「対抗要件」です。
例えば、不動産を譲り受けた場合は、売買契約書にサインするだけではなく、法務局で登記をしなければ、第三者に所有権を主張できないこととされています。また、例えば貸金債権を譲り受けた場合は、債務者に対しては、譲渡人から債務者への通知又は債務者の承諾が、債務者以外の第三者に対してはこれに加えて同書面に確定日付(よく用いられるのは、内容証明郵便です。)がないと、債権譲渡を主張できないこととされているのです。
以上のようなルールがあることで、例えば不動産の買主は、売主の所有権があるかを確認したければ法務局に行って全部事項証明書を取ればよく、また債権譲渡を受ける際には、債務者への通知(内容証明郵便など)があったかを書面で確認すれば、一応安心、ということになります。
・相続の場合のこれまでのルール
相続も、人の死をきっかけとするものではありますが、権利移転の一場面ですから、以上のルールが適用されそうなものです。ところが、相続においては、以上のルールが適用されない場面がこれまでは存在しました。
具体的には、最高裁判所平成5年7月19日判決では、相続分の指定が法定相続分より少なくなされた方が、たまたま登記は法定相続分どおりになっていた状況を利用して、登記上の持分を第三者に譲渡した、という事案で、
「指定相続分を超える部分は無権利の登記だから、第三者は所有権を取得できない」
としました。これだと、登記を信じた第三者が、思わぬ不利益を受ける結果となりますね。
また、最高裁判所平成14年6月10日判決では、「不動産の権利一切を妻に相続させる」という遺言があったにもかかわらず、妻以外の相続人Aさんの債権者が、Aさんの法定相続分の登記をしてその相続分について仮差押えをした、という事案で、最高裁は、
「『相続させる』趣旨の遺言は、法定相続分又は指定相続分の相続の場合と本質的に異ならないから、登記なくして第三者に対抗できる」
と判断しました。その結果、妻には登記がないにもかかわらず、勝訴する結果となりました。
以上の最高裁判所の考え方の根底には、「指定相続分の相続は、所謂二重売買のような対抗問題とは違う」という考え方があるように思われます。確かに理論的にはそうなのですが、現場の問題としては、遺言の内容を第三者は知り得ないのに、登記を信じて取引をした結果不測の損害を受けるのはかわいそうだ、という問題がありました。
・相続法改正では、取引の安全への配慮がなされました!
以上のような問題点について、相続法改正において手当がなされることとなりました。具体的には、
相続による権利の承継においては、法定相続分を超える部分については、対抗要件を備えなければ第三者に対抗することができない。
という規定が新設されたのです。
ただ、債権については、債権者を装った者がうその通知をすることを防止するため、相続法改正では、
債権について法定相続分を超えて承継した相続人は、遺言の内容を明らかにして債務者に通知したときは、共同相続人の全員が債務者に通知をしたものとみなす
ということが定められました。遺言書の交付までは要件ではありませんが、遺言書の内容を明らかにすることが必要、ということです。
このような改正により、「登記を信じたのに思わぬ結果となった!」という事態が相当回避できることになることが期待できそうです。
次回は、相続人以外の方が特別の寄与をした場合の新しい制度に関する話をします。「特別寄与者」「特別寄与料」という新しい概念について、わかりやすく解説を試みます。それではまた来週!