みなさん、こんにちは。
今回は、「特別寄与者」「特別寄与料」という、新しく創設された概念について説明していこうと思います。
本題に入る前に、以下のようなケースを想定してみましょう。
・被相続人のために頑張った人は・・・
父親(75歳)、長女(55歳)、長男(50歳)という家族です。
長女は未婚で、母親が10年前に亡くなったため、当時の勤務先を退職して実家の地方都市に帰り、父親の個人商店の手伝いをここ10年献身的に行ってきました。仕事は忙しかったですが、特に給料はもらっていませんでした。
長男は18歳で大学進学、そのまま東京で結婚し、子供2人がいます。父親の介護は、姉である長女にずっと任せきりでした。
そして父親が亡くなりました。遺産総額は5500万円でした。遺言書はありませんでした。この場合相続人は、長女と長男の2人で、法定相続分は2分の1ずつとなります。
こういったケースで、長男は、長女に対し、
「遺産は、法定相続分のとおり、半分にわけよう」
と述べました。しかしながら、長女としては、
仕事を辞めてまで実家に帰り、結婚もせずに無給で実家の事業の手伝いを献身的に行ってきたのに
という思いが去来し、納得がいきません。長女の思いは、法律上手当されないのでしょうか。
・従来の「寄与分」という制度
これまでも、「寄与分」という制度で、以上のような長女の思いを一定程度実現する手段は用意されていました。概要は、以下のとおりです。
(1)誰が主張できるのか?
共同相続人です。
(2)どんな場合に主張できるのか?
ある程度類型が挙げられています。例えば、
① 被相続人の事業に関する労務の提供
② 被相続人の事業に対する財産上の給付
③ 被相続人の療養看護
により、
「被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした」
場合です。
最初のケースの長女は、(1)は満たしますし、(2)①の場合にあたりますので、ここまではOKですね。
(3)寄与分を主張すると、幾らもらえる遺産が増えるのか?
寄与分については、民法では具体的な計算方法が定められているわけではありません。まずは、共同相続人間、最初のケースであれば長女と長男が話し合って決めるべき、とされています。それでもまとまらない場合には、長女が、家庭裁判所に請求をして決めてもらうことなっています。ここで、家庭裁判所が考慮すべき事情としては、民法は
「寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情」
と定めています。ですから、例えば長女が、「月給が20万円だったとして、12か月で240万円、10年だから2400万円!」などと主張したとしても、当然に認められるわけではありません。長女が具体的にいつから実家の個人商店でどのような業務をどの程度行っていたのか、その月給相当額が長女が行っていた業務に比して妥当かどうか、実家の個人商店の資産形成にどの程度意味があったか、などの総合的な判断になる、ということです。なかなか明確な予測は難しそうですね。
【具体的な計算】
そこで、長女は、長男との間で、寄与分として500万円とすることで協議がまとまったとしましょう。そうなると、遺産の分け方は、具体的にどうなるのでしょうか。
遺産は、5500万円でした。しかしながら、うち500万円は、長女のおかげで増加したとみますので、これを引いて、遺産は5000万円とします。そして、これを半分に分けます。長女、長男共に2500万円ですね。これに、長女について、先ほどの寄与分500万円を加えて、3000万円、ということになります。
まとめますと、
<寄与分の主張がない場合>
長女、長男共に、5500万円÷2=2750万円
<寄与分の主張があり、500万円と協議で定めた場合>
長女:(5500万円-500万円)÷2+500万円=3000万円
長男:(5500万円-500万円)÷2=2500万円
という結論になるのです。
・もし、頑張ったのが「長男の嫁」だったら?
しかしながら、最初のケースを少し変えてみます。
実家に戻ったのは長女ではなく、長男家族で、長男の嫁が実家の個人商店を無給で手伝っていたとします。そして、長男は5年前に父親に先立って亡くなりましたが、その後も従前同様、長男の嫁は実家の個人商店を手伝い続けたとしましょう。
一方で、実家を顧みなかったのは長女の方で、東京でバリバリとキャリアウーマンとして活躍していました、という場合です。
このような場合も、長男の嫁は、寄与分を主張できるでしょうか。答えは、NOです。思い出してみましょう。寄与分を主張できるのは、「共同相続人」に限られていました。ですから、そもそも長男の嫁には、民法上寄与分を主張することが認められていないのです。
・相続法改正により新設された、「特別寄与者」と「特別寄与料」
今回の相続法改正では、主に以上のような、「頑張った長男の嫁」にも寄与分と同様の主張ができるように、「特別寄与者」という立場の者が「特別寄与料」(内容は、ほぼ寄与分と同じです。)を主張できる、という制度が創設されました。条文は少々複雑なので引用しませんが、大まかに申し上げますと、先ほどの寄与分の説明で、(1)(2)(3)のうち、(1)(誰が主張できるのか?)を、「被相続人の親族」に拡大した、ということになります。「親族」とは何か、については、民法に定義があり、
① 六親等内の血族
② 配偶者
③ 三親等内の姻族
です。血族や配偶者は、多くの場合「寄与分」の制度で保護されることが多いでしょうから、ここでは③三親等内の姻族(婚姻によってできた親戚、という意味です。)が主張できる、としたところに大きな意味があります。
ただ、以上の改正も、無限定に特別寄与料の主張を認めるわけではありません。例えば、遠い親戚のおばさんだと、上記の「親族」の要件に該当しないことがあると思われます。また、実際にご相談が比較的よくあるケースとして、亡くなった方が長期間正妻とは別居し、愛人と生活しており、愛人が晩節の財産形成に寄与していた、というような場合も、その愛人には特別寄与料の主張はできません。
・特別寄与料の請求は、時間制限に注意!
今回は、少々長くなりましたが、特別寄与料というのが、寄与分の主体を拡大したようなもの、というイメージはつかめたでしょうか。それで概ね合っているのですが、ここでひとつ注意です。特別寄与料の新設規定には、寄与分の条文にはない、時間制限が定められています。すなわち、
特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から6箇月を経過したとき、又は相続開始から1年を経過したとき
は、特別寄与者が家庭裁判所に対して特別寄与料の支払について協議に代わる処分を請求することができなくなる、というものです。
自分が特別寄与者にあたり、かつ特別寄与料を請求しようとする場合には、この時間制限をしっかり念頭に置いて動かなければなりません。遺産分割協議は遅々として進まないことも少なくなく、半年などあっという間に過ぎてしまうものです。この点、十分注意していきましょう。
次回からは、遺留分という制度の改正について解説していきます。遺留分の改正は、若干内容が多岐にわたりますので、複数回に分けてご紹介していくことにします。最初は、「遺留分減殺請求権」が「遺留分侵害額請求権」に変わります、という話です。法律用語も、どんどん変わっていきますね!それでは、又来週。