みなさん、こんにちは。

前回は、遺留分減殺請求権が遺留分侵害額請求権に変わったことと、その意味についてご説明しました。今回からは、具体的な計算方法を、実際の事例をもとに一緒に確認していきましょう。

今回は、遺留分の額の計算までを説明します。次回で、遺留分侵害額の計算と、それをどのような順序で行使できるのか、などについてご説明していきます。今回も次回も、電卓をそばにお読み頂くと、よりわかりやすいと思います!

・事例

2000万円の自宅(一戸建て)と、3000万円の中古マンション、そして500万円の預貯金を持つ旦那さんには、奥さんとの間に成人した息子と娘が1人ずついます。しかしながら、旦那さんは長年奥さんとは10年以上別居しており、上記の中古マンションに愛人と住んでいます。旦那さんは、家族のうち奥さんと娘からは完全に嫌われてしまい、別居後一切連絡を取り合っていなかったものの、息子だけは仲が良く、3年ほど前に息子さんが結婚する際に500万円を結婚とその後の生計のためということで贈与していました。そのような状況下、旦那さんは逝去しました。旦那さんは遺言書を残しており、遺言書においては、中古マンションと預貯金は愛人に遺贈する、自宅は奥さんに相続させる、ということが書かれていました。なお、旦那さんには借金はありませんでした。

(1)遺留分を算定するための財産の価額

改正法では、遺留分の計算の仕方が丁寧に条文で書かれています。これに従って、以上の事例をあてはめていきましょう。まずは、遺留分を算定するための財産の価額を計算します。これは、単純に相続開始時に旦那さんが持っている財産の金額、ではないのです。

計算式は、

(被相続人が相続開始の時において有した財産の価額)+(その贈与した財産の価額)―(債務の全額)

とされています。

事例をあてはめると、

2000万円+500万円+3000万円+500万円=6000万円

ということになります。

考え方としては、もし生前贈与や遺贈がなければ、個人の遺産はどのくらいだったのか、ということですね。以上のように、個人が贈与した財産の価額を相続開始時の財産に加えることを、「持ち戻し」といいます。

【改正のポイント】

遺留分に関する持ち戻しについては,現行民法では,「相続人以外(例えば,愛人など。)」については相続開始前1年以内の贈与まで,とするのが原則である一方で,「相続人」については,特別受益に該当するものは相当古い贈与でも遡って減殺の対象とすることができる,というルールでした。

しかしながら,相続法改正により,「相続人」についても,

当事者双方が遺留分侵害を知って行った場合を除いて,相続開始前10年以内の贈与に限る

ことに改められました。上記の事例でいえば,息子さんが500万円をもらったのが3年前なので,持ち戻しの対象になりますが,これが11年前であった場合,持ち戻しの対象にならない,ということになります。

(2)遺留分の帰属とその割合

ここは、従前と変わりません。事例だと、遺留分を受けられるのは、妻、息子、娘です。そして、割合は2分の1になるので、

6000万円÷2=3000万円 これを法定相続分(妻2分の1、息子と娘は各4分の1。)で分けると、

妻:3000万円÷2=1500万円

息子、娘(各々):3000万円÷4=750万円

以上が、事例における遺留分を受ける者とその具体的金額、ということになります。

 

なかなか数字が多く、ここまでお読み頂くのは大変だったかと思います。ここでやっと半分まで来ました。次回は、遺留分侵害額の計算と、その請求の順序、ということをテーマに、やはりしっかり数字で具体的に、その方法を追っていきましょう。

それでは、又来週!