みなさん、こんにちは。

前回は、事例をもとに、遺留分の額の具体的な計算までの説明をさせて頂きました。そこで今回は、遺留分侵害額は、誰について、幾ら発生しているのか、そして、これを誰にどのような順序で請求できるのか、ということを考えていきましょう。

(3)遺留分侵害額

改正法では、以下のとおり定められています。

(遺留分)―(遺留分権利者が受けた遺贈又は特別受益にあたる贈与の価額)―(民法900条から904条までを適用した結果遺留分権利者が取得できる遺産の価額)+(遺留分権利者が承継する債務)

民法900条から904条というとなかなかピンと来ないかも知れませんが、誤解を恐れず非常にざっくり言いますと、

民法どおりの具体的相続分の計算。ただし、寄与分を考慮しない。

ということになるかと思います。事例にあてはめると、

妻:1500万円―2000万円(自宅の一戸建て)=-500万円

→遺留分侵害額請求権はない。

息子:750万円―500万円(結婚資金)=250万円

娘:750万円

となります。

(4)遺留分侵害額請求権を行使する順序

以上のとおり、息子が250万円、娘が750万円の遺留分侵害額請求権を有していることがわかりました。それでは、この後、息子や娘は誰に対して、どのような順序で遺留分侵害額請求権を行使できるのでしょうか?

遺留分侵害額請求の行使については、改正法は順序を明文で定めています。ポイントを2つに絞って挙げると、

① 移転した財産は、新しいものから古いものの順で遺留分侵害額請求を負担する。

② 同じ時期に移転した財産は、その価額(相続人が遺贈又は贈与を受けている場合は、遺留分を超えてもらった分)の割合で遺留分侵害額請求を負担する。

ということになります。

そこで、事案を思い出してみましょう。事案では、3つの遺贈・生前贈与がありました。

A:妻に対する、一戸建て(2000万円)の遺贈

B:愛人に対する、中古マンションと預貯金(合計3500万円)の遺贈

C:息子に対する、現金(500万円)の生前贈与

以上のうち、AとBが同じ時期、Cがそれより古いので、まずはAとBから、息子と娘は遺留分侵害額請求をすることができる、ということです。そしてその割合は、A:B=(2000-1500):3500=1:7、となります。妻は相続人なので、遺留分である1500万円を超えてもらった金額の限度での負担となるからです。すなわち、

(息子)

妻につき、

250万円×8分の1=31万2500円

愛人につき、

250万円×8分の7=218万7500円

(娘)

妻につき、

750万円×8分の1=93万7500円

愛人につき、

750万円×8分の7=656万2500円

という金額の限度で、息子と娘は妻(母親)と愛人が遺贈を受けた財産に対し、遺留分侵害額請求権を行使していくことができる、ということになります。

 

ここまで2回に分けて、具体的事例で計算方法をご紹介しました。本当はもっと細かい内容が改正法には含まれていますが、難しくなりすぎるのはこのコラムの趣旨から離れてしまいますので、ここでは割愛させて頂きます。

次回は、遺言執行者に関する改正について解説していきます。相続法改正について、これまで連載してきましたが、大きなテーマとしては、次回が最後になります。これまで同様、一般の方になるべくわかりやすいように、平易な説明を心掛けてまいります。

それでは、又来週!