ここでは、交通事故でお怪我をされた方に、弁護士の見地から、最低限知っておいていただきたいことを、お話していきたいと思います。

テーマは以下の9つです。順にご説明しますのでお付き合いくださるとうれしいです。

  1. 治療はしっかりと受けることが大事です
  2. 示談をする前に必ず弁護士の判断を仰いでください
  3. 治療の際には医師にしっかりと症状を伝えましょう
  4. ご自身に過失がある場合は健康保険を使いましょう
  5. 必要な検査・画像診断はしっかり受けましょう
  6. 先に物損の示談をする場合は気をつけて
  7. 慰謝料の目安だけでも知っておきましょう
  8. 後遺障害の等級認定はとても大切です
  9. 専業主婦でも休業損害はあきらめない

1.治療はしっかりと受けることが大事です

交通事故でお怪我をされた場合には、事故当日、少なくとも翌日には病院で診断を受けることと、医師の指示に従って必要な治療期間はしっかりと病院に通うことが大事です。病院には週に2、3回程度通うのが通常です。

事故後すぐに病院に行かないと、本当に事故によって怪我をしたのかどうか分からない、といった因果関係の争いになる可能性があります。また、通院日数や通院期間は、慰謝料がいくらになるかの算定上大きな意味を持ちますので、忙しいからといってなかなか病院に行かなかったりすると適切な補償が受けられなくなる可能性があります。

また、後遺症が残ってしまった場合の後遺障害の等級認定の上でも、どのような形で病院に通っていたかは、大きな意味を持ちます。そういう意味では、交通事故に遭われた当初から、どのような治療方針でどのくらいの期間通うのが目安になるのかについても把握しておくと有益でしょう。

2.示談をする前に必ず弁護士の判断を仰いでください

交通事故被害の本来の専門家は、弁護士であるはずなのですが、多くの方が交通事故の示談金の決定を、保険会社の判断に任せきりにしがちです。率直に、保険会社の認定する示談金の金額は、通常は我々弁護士が考える金額より相当低い金額にとどまっています。

例えば、我々の考える示談金の金額が150万円相当であっても、保険会社の提示は、60万円や70万円ということも少なくありません。

普段お世話になっている保険会社が一番頼りになるように見えるかもしれませんが、考えてみれば、保険会社はお金を払う側なので、なるべく低い金額で示談をと説得されてしまいます。あなたの遭った交通事故の被害弁償として、提示された示談金額が適正なのかどうかを、少なくとも示談をする前に必ず弁護士に相談するようにしてください。

3.治療の際には医師にしっかりと症状を伝えましょう

治療を受ける際には、特に初回の診断の場合は、しっかりとご自身の症状を告げて、その内容を診断書にしっかり記載してもらうことが大事です。こちらが言ったつもりでも、診断書を見てみると症状が記載されていなかった、ということも多くありますので、必ず医師に診断書に、症状を記載してもらうことが大事です。

怪我の症状を診断書に記載してもらえないと、整骨院などでの手術の際、治療費が自己負担になってしまったり、後遺障害の等級認定を受ける際に、資料に整合性がないといった理由で、本来認定されるべき等級認定が受けられなくなる可能性もあります。当初からご自身に生じているお怪我の症状を、しっかりと医師に伝えて、診断書に記載してもらうようにしましょう。

4.ご自身に過失がある場合は健康保険を使いましょう

交通事故で怪我をした場合には健康保険が使えないと思われてる方が非常に多いようです。後ろから追突されたような事故であれば良いのですが、交差点での正面衝突や、自動車が双方ともに動いている場合の事故、その他ご自身にも過失が認められるような事故の場合は、健康保険を使わないと、最終的に受け取る示談金が大きく減額される可能性があります。

例えば、過失が20%ついてしまう事案では、治療費が150万円の場合、最終的には示談金より30万円差し引かれますが、健康保険を使って治療費を50万円に抑えておけば、最終的に差し引かれる金額を10万円に抑えることができます。

とても大きな事故で、入院をされるような場合は、治療費だけで1千万円を超えるケースもありますので、健康保険の利用の要否は、必ず治療を受ける初期の段階から検討するようにしましょう。

5.必要な検査・画像診断はしっかり受けましょう

病院に行った際には、レントゲンや MRIの画像診断、その他、症状に合わせた必要な検査を受けることが重要です。これらの画像診断や検査を怠ってしまうと、将来の補償金額に大きな影響が出る可能性があります。

まず、示談の段階でも画像診断や検査結果がないと、軽い症状だったのではないかなどと保険会社から指摘され、慰謝料が減額されたりするケースがあります。

また、後遺障害の等級認定は、認定を受けると百万単位で示談金額が変わってくるため、後遺症が残った場合に等級認定を受けられることは非常に大切です。等級認定の判断要素として、画像診断や検査結果が重要視されますので、この時に画像診断や検査結果が不足しているとなると、本来とれるはずの後遺障害等級認定がとれなくなってしまうリスクが出てきます。

治療開始当初からこれらの知識があればベストですが、治療開始後相当期間経過した後でも、なるべく早いうちにこれらの知識を備えていただくことが大切です。

6.先に物損の示談をする場合は気をつけて

自動車対自動車、自転車対自動車、歩行者対自動車などの事故で、車が破損した、自転車が壊れた、身につけていたものが壊れた、などの損害を賠償してもらう手続きは、物損(ぶっそん)といいます。これに対して、怪我をした治療費や慰謝料賠償してもらう手続きを、人損(人損)と言います。怪我の治療には、半年から一年かかるケースも多いので、人損の手続きの前に、 物損の金額だけ確定して示談するケースは多いです。

その際に気をつけていただきたいのが、金額はもちろんですが、過失割合の部分です。小さい金額だと、過失割合もあまりチェックせずに、うっかりサインしてしまいがちですが、 例えば20:80の過失であっても、人損の示談の際には数十万、数百万の影響が出る場合があります。物損と人損では過失は別に考えるなどと保険会社に言われることもあるようですが、実務上は物損で取り決めた過失割合を、人損の示談の際にも用いるのが当然といった運用がなされています。

もちろん、人損で過失割合を算定し直すことはあるのですが、保険会社を説得するのに難航を極める場合もありますので、物損の示談の際は、特に過失割合には気をつけてください。

7.慰謝料の目安だけでも知っておきましょう

交通事故でお怪我をされた場合の慰謝料は、どれだけ辛い思いをされたかを表す金額なので、本来であれば人それぞれのはずです。しかしながら、その場その場で慰謝料を算定するのは困難であることから、法的には、裁判所の考える慰謝料の金額を、原則として基準としています。この慰謝料の金額は、基本的には、お怪我の症状と、入院・通院日数や入通院期間を基に、形式的にほぼ決まってきます。

例えば、むち打ち症で8ヶ月間通院をされた方の慰謝料は、原則103万円が基準となります。 骨折をされたり、 症状が重い方の場合は、例えば入院一か月+通院一年で、183万円という金額が基準になります。

これらの算定は、赤い本という交通事故の専門書籍に掲載されている別表Ⅰ、別表Ⅱにによるものですが、保険会社も、本来であればこの計算が基礎となることを熟知しています。保険会社の提示が、この慰謝料の目安よりもだいぶ低いようであれば、弁護士に相談していただくことをお勧めします。

8.後遺障害の等級認定はとても大事です

むち打ち症で治療を継続したけれど結局痛みが残ってしまった、怪我の後遺症で手足が動きづらくなってしまった、等の症状は、後遺障害という形で等級認定を受けることになります。むち打ち症で痛みが残ったケースは、14級9号という等級認定を受けることが多いですが、この認定を受けるだけでも、慰謝料としては110万円、後遺障害に基づく逸失利益として数十万円(多い方は100~200万円)程度が基準となってきます。

痛み等は残らないに越したことがないですが、彼に痛み等が残ってしまった場合には、しっかりと等級認定を受けて、これに基づく補償を受けることが大事です。

等級認定の方法も、保険会社任せにする事前認定という方法では、資料が不足していたり、大事な主張が漏れていたりという理由で 本来の認定が受けられない危険があります。

等級認定には、資料がしっかり揃っていることと、これらの資料に記載漏れがないこと、矛盾がないことなどが大事になってきますので、弁護士が資料を精査して等級認定を受けるための万全の準備をすることが大事です。

9. 専業主婦でも休業損害はあきらめない

交通事故に遭われた場合の休業損害とは、一般的には会社員の方が会社を休んでお給料が減った部分を補償するというイメージが強いと思います。しかし、日本の法律では、 例えば専業主婦の方も、立派に、炊事や洗濯、掃除といった仕事をしていることから、その家事という仕事に経済的な価値があるという考え方を取っています。

保険会社任せにしてしまうと、交通事故で怪我をした場合であっても、休業損害は出ない扱いになることが多いですが、怪我の痛みによって、家事に支障が出てることは間違いありませんので、この部分を休業損害としてしっかり補償してもらうことが重要です。

家事の分担には、様々な形態がありますので、必ずしも高額の休業損害にならないケースもありますが、通常のむち打ち事案でも、40万円程度は認められるケースが多いです。兼業主婦の方は、家事に支障が出た部分を請求した方が休業損害が高くなるケースもありますので、その点もご相談いただければと思います。