不倫の慰謝料とは
「不倫の慰謝料」という言葉はよく聞きますね。では、不倫をしたらなぜ慰謝料が発生するのでしょうか?
法律の根拠は民法709条です。不法行為という条文です。
民法709条を見ると、「故意又は過失によって他人の権利利益を侵害した者は、その損害を賠償する責任を負う。」という内容が書かれています。慰謝料に関する関係で簡単な表現にすると、「わざとまたはミス(注意義務違反)によって、人の権利を侵害し、精神的苦痛を与えた(傷つけた)ものは、その苦しみを慰謝するための慰謝料を支払え。」といった内容の条文ということになります。
これを不倫に当てはめると、「妻がいることを知っていながら(または知り得たにもかかわらず)、不倫をすれば、妻は円満な夫婦生活を送っていく権利を侵害され、精神的苦痛を被るので、その苦痛を慰謝するための慰謝料を請求できる。」というわけです。
よく、「通常の交際関係では、浮気をした場合でも慰謝料が発生しない。」と言われるのは、法的には、「通常の交際関係だけでは、浮気をされても権利を侵害されたとまではいえない」からなのです。法的な考え方は、夫婦とまではいかなくても、「婚約をしている関係」や「事実婚(内縁関係)」の場合は、不倫をされればそれ相応の権利侵害があったとされ、慰謝料が発生すると考えられています。
不倫の慰謝料はいくら請求できる?
不倫の慰謝料の相場は?なんてこともよく聞かれます。ズバリいくら、という基準があるわけではありませんが、おおよその相場はあるといえます。
不倫の慰謝料の金額というのは、あくまで、「その人がどれだけ傷ついたかを金額で表すもの」なので、傷ついた度合いを判断するための一定の要素があると考えられています。
例えば、
- 婚姻期間が長い方が高い
- 子供がいた方が慰謝料は高い
- 不倫の回数や頻度が多い方が慰謝料は高い
- 不倫の期間が長い方が慰謝料は高い
- 不倫が発覚した後の対応が不誠実だと慰謝料が高くなる
など、慰謝料の金額の判断要素はたくさんあります。これらの要素を総合考慮して、慰謝料の金額が決まってくるわけです。
特に、不倫によって夫婦関係がどれだけ悪化したか、は大きな判断要素なので、これによって慰謝料の相場は分かれてきます。
これはあくまでイメージですが、裁判所の判断を見ていると、
- 不倫で離婚に至った場合の慰謝料は大体200万円~300万円
- 不倫で離婚とまではいかなくとも別居状態になった場合は100万円~200万円
- 不倫があっても夫婦関係が継続した場合は最大で100万円程度
といった大体のイメージはあります。
ただこれは、あくまで裁判に至った場合の慰謝料の金額なので、裁判に行く前の段階では、これよりもはるかに高額となったり、極めて低額になったりする場合もあります。
不倫の慰謝料は誰に請求できる?
不倫の慰謝料を誰に請求できるか、という問題は実はとても難しい問題です。
そもそも不倫の慰謝料は、民法709条の不法行為を根拠として、請求できるというお話をしました。そうなると、もちろん不倫の慰謝料は、不倫という不法行為を行った人間に対して請求できるわけです。
そうなるとこの不倫=不法行為は、夫と不倫相手が共同して行っているという評価になります。もうお分かりだと思いますが、そうです。不倫の慰謝料は、夫と不倫相手、2人に対して請求できるということになります。
よくご質問を受けるのは、夫に対して慰謝料300万円、不倫相手に対して慰謝料300万円、合計600万円を請求できるのでしょうかというものです。残念ながら、そうではありません。法的な計算方法は、傷ついた大きさ=慰謝料が300万円の場合は夫と不倫相手を合わせて300万円請求できるということになります。
ここからはちょっと難しいお話になります。この不倫行為は、共同不法行為と言って、法的には不真正連帯債務の関係と言われます。難しい言葉だらけですね。
この関係では、連帯保証人をイメージするとわかりやすいかと思いますが、どちらか一方に対して全額請求をしても良いですし、別々に分けて請求することもできる、例えば150万円ずつ2人に対して請求することもできます。このような関係を不真正連帯債務の関係というわけです。
実際の場面では、不倫相手に慰謝料請求をしようとしても、お金を持っていないので、やっぱり夫に対して全額請求しようと言った判断や、夫とは今後も夫婦関係を続けていくので、不倫相手に対して全額請求しようと言った判断など、状況に応じて誰にいくら請求するかを判断していくことになります。
何が不倫の証拠になる?
どういうものが不倫の証拠になるのか、というご質問もよく受けます。結論としては、不倫を疑わせるものはすべて証拠になる、といえます。
もちろん、ホテルに2人で入っていく写真や、2人が一緒に裸でいる写真などがあればズバリ不倫の証拠としてはほぼ十分です。ただ、通常は、そういったズバリの証拠見つけるのは難しいので、仲が良さそうなLINE・メールのやり取りや、2人で恋人のように写っている写真、記念日を一緒に祝ったことを裏付ける証拠など、こういった証拠を積み上げて、「およそこのような証拠がこれだけ揃うのであれば、不倫があったのだろう。」ということを立証していくことになります。
特に強い証拠は、2人で共に一夜を過ごしたことを裏付ける証拠です。ホテルで2人で一泊したことを示すクレジットカードの履歴や、不倫相手の家で一泊したことを裏付ける写真やメールのやり取りなど、が証拠の一例です。例えば、LINEメッセージで、「今日は君の家に泊まれるから。」といったメッセージが残っていたら、証拠としては非常に強いです。また、クレジットカードにシティホテルの利用履歴があり、ちょうど同じ日の日付で、「午後10時に~~で待ち合わせね。」と待ち合わせのLINEのメッセージがあったような場合は、およそ「二人で宿泊したのだろう。」という事実を推認させることができます。
よく、「勝手に携帯やスマホのロックを解除して得た証拠は、違法に集めた証拠だから、使えないんですよね。」という質問も聞きます。結論としては、そんな事はありません。もちろん、勝手に携帯やスマホ見る行為は、プライバシー侵害の側面もありますが、これによって得られた証拠を裁判所が否定するような事はなかなかありません。実際に不倫をしていながら、そんなの違法証拠だと主張しても、裁判所はそんな主張をなかなか受け入れないということです。
不倫の証拠はどうやって集める?
まず、「不倫の慰謝料請求をするには、裁判で勝てるだけの十分な証拠が揃っていなければならないか」というとそんな事はありません。通常は、裁判を起こす前に、慰謝料を支払ってくださいという交渉をするので、その段階で、ある程度相手が認めて、話に応じてくれるようであれば、そもそも証拠など必要ないということもいえます。
相手が不倫を真っ向から否定し、慰謝料など1円も支払わない、と開き直った場合には、ある程度の証拠の存在を相手に示して交渉することも必要になる場合があります。最終的に裁判になった場合を見据えて、交渉の段階でも、可能な限り証拠を集めておくことが有用です。
証拠として認められるのは?というと、すでに述べた通り、基本的には何でも証拠になる、ということになります。
- LINEメッセージやメールの内容
- 写真、動画
- デートやプレゼントを購入したネット購入の履歴
- ホテル宿泊のカードの明細
- SNSへの書き込み・写真投稿
- ホテル代やプレゼント代等のレシート
- ワイシャツについたファンデーションの跡の写真
- 出張と言っていた日に別の行動をしていた事を記録した日記メモ
など、不倫を疑わせるものはすべて証拠として残しておくことをお勧めします。
気をつけなければいけないのは、違法収集証拠といって、相当に悪質な方法で手に入れた証拠は、証拠として認められない可能性があります。例えば別居中の夫の住まいに勝手に入り込んで証拠を勝手に持ち出したようなケースは、たとえ合鍵があったとしても、住居侵入等と判断され、証拠も否定される可能性がありますので注意が必要です。
不倫の慰謝料を請求するにはどうしたらいい?
弁護士をつけずに、慰謝料請求をする場合は、いきなり家に押し掛けて、一筆書かせるような方もいらっしゃるようです。しかしながら、このような方法に出てしまうと、後々、住居侵入だ、恐喝だなどと言われ、新たな紛争の火種にになる可能性があるほか、むしろこちら側が悪いなどとされてしまう可能性さえあります。慰謝料の請求をするには、しっかりと準備をして、慎重に進めた方がよいでしょう。
通常の慰謝料の請求の方法としては、まずは相手方に対し、内容証明郵便という方法で、慰謝料を支払ってくださいという書面を送ることから始まります。
この書面には、「いついつまでにいくら払ってください、反論があるのであればいついつまでに反論してください。」という内容を記載しますので、通常はこの段階で相手方より、「書面が届いたのですが・・・」という連絡が、弁護士宛に入ります。
話し合い・交渉に入った段階では、相手方の言い分を聞いて、事実はどうなのかといったところを探っていきますが、基本的には、裁判に至る前に、慰謝料ないし解決金として、いくら払ってもらうのかについて取り決めをし、合意書を交わして解決に至る事が通常です。
相手が全く返事をしてこない、連絡もつながらないといった場合には、最終的には裁判という手段も視野に入ってきます。
裁判になった場合、相手方が出頭してこない場合には、こちら側の主張が基本的にはすべて認められ、裁判所が慰謝料の金額について判断します。
相手方が裁判に出頭してくる場合は、通常は弁護士を立ててくると思いますが、しっかりと裁判所を説得する必要があります。不倫の事実を証拠に基づいて主張立証し、裁判所に不倫の事実と、慰謝料の金額もなるべく高額を認めてもらえるよう説得していきます。
この場合でも、判決までに至らずに、裁判上の和解によって解決することも少なくありません。和解の金額や条件についても話し合いがまとまらない場合は、最終的に裁判所に判決を出してもらいます。
不倫の慰謝料請求をされたらどうしたらいい?
不倫の慰謝料を請求する内容証明が、いきなり家に届いたと言って慌てる方も少なくありません。全く見に覚えがないということであれば、もちろん反論する必要がありますし、仮に身に覚えがある場合であっても、慰謝料の金額として請求金額が妥当なのかについて吟味する必要があります。
仮に、身に覚えがない場合であっても、返答しないまま放置してしまうと、いきなり裁判を起こされたり、場合によっては、お給料を差し押さえされたりといったリスクもありますので、放置することはお勧めしません。身に覚えがある場合であっても、請求されている金額については、通常は高額な請求となっているはずなので、どこまで減額できるかという交渉をしていくことになります。
既にお話ししましたが、不倫は、不倫をした2人の共同不法行為ですので、不倫の慰謝料についても不倫をした2人で負担すべきものです。したがって、請求金額を一人でどこまで背負うべきなのか、についても吟味が必要です。
多少難しいお話になりますが、例えば相手からの請求につき、慰謝料は100万円ということで100万円全額を払ったという場合、一緒に不倫をした相手に対しても、例えばそのうち半分の50万円は支払ってよという請求ができることになります(これを「求償(きゅうしょう)」といい、請求できる権利を「求償権」といいます。)。その場合の責任の割合についても半々なのか、40:60なのかといった法的判断が必要になります。
いずれにせよ、慰謝料請求をされた場合に、自分1人で背負う必要はないということを知っておく必要があります。夫婦が離婚していないような場合であれば、減額交渉の段階で、その責任割合についても話し合うことより、大幅な減額ができる場合があります。
不倫相手の勤務先に不倫をばらすことはNG?
「悔しいので不倫相手の勤務先に、不倫の事実をばらしたい。」というお声はよく聞きます。
たしかに、不倫をされた側にとっては、「こんなにひどいことをしておきながら、悠々と生きている相手が許せない。」という気持ちになる心情はよくわかります。
しかしながら、相手の勤務先にばらす、その行為に出てしまうと、その方法によっては、名誉毀損に当たったり、プライバシー侵害として逆に損害賠償請求をされるような事態になりかねません。
心の中の悔しい気持ちをなんとか解消したいというお気持ちはわかりますが、それは、相手方に対して、復讐のような形で行うべきではありません。相手方に、「大変なことをしてしまった。申し訳ないことをした。」と認識させ、慰謝料等の法的責任をしっかりとってもらうことによって、賄うことが最善の方法です。
弁護士が交渉に入り、相手方に自身のしたことを振り返ってもらい、法的に違法であること、法的責任が重大であることなどをしっかり伝えていくことにより、自分のしたことの事の重大さを痛感し、謝罪してくるということも少なくありません。
相手の違法行為に便乗して、ご自身も違法行為に手を染めてしまっては元も子もありませんので、しっかりと適法な方法により相手に責任を取ってもらいましょう。
不倫相手の家族に不倫をばらすことはNG?
ダブル不倫のような場合、「相手の夫(妻)に不倫の事実をばらして、貶めたい。」とおっしゃる方も少なくありません。場合によっては、不倫相手が両親と同居してるような場合に、「両親にその事実を告げてやる」と憤りを隠せない方もいらっしゃいます。
この場合も、厳密に言えば、当事者は不倫相手その人ですから、その配偶者や両親との家族に対して不倫の事実をばらす行為は、プライバシー侵害や名誉棄損の可能性が皆無ではないと言わざるをえません。
とはいえ、通常は1番初めに、「内容証明を相手の住所宛に送付する」ことになりますので、その家族や配偶者が、書面を受け取って開いてしまうようなこともないとはいえません。そういった場合には、こちら側の内容証明送付行為が、プライバシー侵害や名誉毀損として違法と評価される可能性は、極めて低いといえるでしょう。
不倫の慰謝料請求については、やはり感情の面が非常に重要なので、「相手方を貶めたい。」という気持ちになるのも理解はできます。ただ、その行為は新たな違法行為となる可能性が高いとともに、復讐心に染まってしまうと、あなたの人間としての魅力も、減ってしまうことになりかねません。憎しみ、悔しさの気持ちは、相手方にしっかりと、こちらの主張や気持ちを伝えることにより、事の重大さを分かってもらう、しっかり責任を取ってもらうことによって、回復していくことをお勧めいたします。
不倫の慰謝料の合意書はどんな内容?
不倫の慰謝料についてお話し合いが進み、金銭で責任を取ってもらうことになった場合、最終的には合意書というもの作成するのが通常です。この合意書に記載すべき内容は以下の通りです。
- 慰謝料ないし解決金としていつまでにいくら払ってもらうか
- 振込先口座と仮に入金が遅れた場合の遅延損害金の定め
(自分の振り込み先口座さえ相手に知られたくないという方は、弁護士の口座を使うことも少なくありません) - 今後交際関係を解消し、連絡を取らないといった旨の条項
- 本件に関して周囲に知られたくないという場合には口外禁止条項
- (あまり多くありませんが)書面上で謝罪の意を表する旨の文言
- 慰謝料を支払った後に、自分の夫・妻に対して求償しないことの確認
- その他一切権利義務関係がないことの確認
以上のようなものです。
合意書は、お互いもしくはその代理人弁護士が署名押印することによって、しっかりとした法的効果を持つ書面となりますので、後の紛争の再発防止のために、しっかりした内容で合意書を作成しておくことが必要です。
最後に~不倫の慰謝料請求について~
不倫をされ、慰謝料を請求したいという場面では、何よりも感情面が大事だと痛感しています。ご自身で慰謝料請求を対応される場合に、相手の不誠実な対応によって、さらに傷つくということも少なくないようです。相手方に事の大きさを実感してもらい、しっかりとその法的責任、社会的責任を痛感してもらい、心からの謝罪として慰謝料を払ってもらう、そのプロセス自体もとても重要だと感じています。
もしお一人でお悩みの方は、そのようなプロセスをしっかりと弁護士が担いますので、ぜひ弁護士を頼ってくださいね。
逆に、慰謝料請求をされた側の方も、ご自身の言い分をしっかり主張することや、適切な慰謝料に減額してほしいといった交渉は、とても大事です。内容証明郵便が届いて、どうしたら良いか分からないと不安でいっぱいの方も、ぜひ弁護士にご相談ください。今後の交渉をどう進めるべきなのか、的確なアドバイスをさせていただきます。
不倫の慰謝料問題は、何よりも、泥沼の争いになって、お互いに傷つけ合い、なじり合い、お互いに遺恨を残したままの後味の悪い解決になることは、可能な限り避けねばなりません。場合によっては長い年数、嫌な気持ちを引きずることになってしまいます。
その意味でも弁護士の役割はとても重要だと感じています。ぜひ気軽にご相談くださいね。